大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ナ)24号 判決

原告 佐藤慶次郎

被告 新潟県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は昭和二十六年四月二十三日執行の新潟県岩船郡金屋村議会議員選挙の当選効力について、同村選挙管理委員会のなしたる決定に対する原告の訴願について被告が同年七月十七日附を以つてなしたる裁決を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として(一)昭和二十六年四月二十三日執行の新潟県岩船郡金屋村議会議員選挙の選挙会は得票各百二十八票の近藤定一、米山寅吉乃至得票八十五票の原告の二十二名を当選者と定め、得票八十四票の志村平吉は落選した、而して志村平吉は右当選の効力に関し同村選挙管理委員会に異議の申立をしたところ、同選挙管理委員会は同年五月十六日附を以つて原告の得票中一票を無効とし、原告及び志村平吉の得票は各八十四票であると決定したので、原告は被告に訴願したところ被告は、同年七月十七日附を以て原告の訴願を排斥し、原告の当選を取消す旨の裁決をした。(二)しかしながら、(イ)選挙会が原告の得票とし被告が無効とした一票(乙第一号証)は「遠山ケジロウ」と記載してあるが、同地方農村は一般に教養の程度も低く、金屋村大字金屋は総戸数三百戸中遠山姓と佐藤姓を称する戸数は全体の約六割を占める実情であるから他の姓との間違を避けるため名のみを呼んでおり、姓を以つて呼ぶことは殆んど稀なのである。又本件選挙において慶次郎という名を称する候補者は原告一人のみであり、遠山姓を称する候補者が一人であれば格別、五人の多数に上つている本件の場合において、「ケジロウ」と原告の名を明瞭に書いてあるところから推察するときは、右一票は原告に投票せられたものと見るべきであり、従つてこれを無効とすべきものではない。(ロ)選挙会及び被告が志村平吉の得票とし、原告が無効であると主張する三票(乙第二号証の一ないし三)は「志村仁平太」又は「シムラニ平タ」と記載してあるが、志村平吉という立派な氏名があるのに、わざわざ候補者でない既に故人となつた同人の先代志村仁平太の氏名を達筆に書かれていることは、候補者と選挙人との間に何か気脈を通ずるものがあるのではないかともおもわれ、又その家号は俗称「仁平太」と呼ばれて居り志村仁平太とは呼んでいないのであるから、右投票は他事を記入したものか又は何人に投票したか不明確であるともいい得るものであつて、無効とすべきである。

しからば原告は八十五票、志村平吉は八十一票となり、原告は当選者たるべく、原告の当選を取消した被告の裁決は失当であるから、これを取消すべきものであると陳述した。(立証省略)

被告は主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として原告主張の(一)の事実はこれを認めるが、(二)の事実については(イ)選挙会が原告の得票とし被告が無効とした一票(乙第一号証)は鉛筆で「遠山ケジロウ」と記載せられて居り、本件選挙において、候補者中遠山姓の者が遠山直一、遠山五一郎、遠山吉四郎、遠山賢吾及び遠山富次郎の五名あることから見れば、選挙人は、はたしてこれら五名の遠山姓の候補者の一人を選挙せんとする意思で記載したものか、又は原告を選挙せんとする意思で記載したものか全く判断ができない。原告のいうが如く、遠山姓の候補者は五人もあり、慶次郎の名の候補者は原告一人であるからといつて、係争投票が原告を選挙したものであるということは到底でき難いものであるから、右一票は公職選挙法第六十八条第一項第七号「候補者の何人を記載したかを確認し難いもの」として無効とすべきものである。(ロ)選挙会及び被告が志村平吉の得票とし原告が無効であると主張する三票(乙第二号証の一ないし三)は鉛筆で「志村仁平太」又は「シムラニ平タ」と記載せられているが、この記載と類似の氏名を有する候補者は志村平吉の外には存在しない、又志村仁平太というのは同人の亡父の氏名であるとともに、代々同家の主人は仁平太という呼名で通つてきており、現在においても村民一般は仁平太と呼んでいるところから見ても、仁平太は志村平吉の通称の類であるとの認定もなりたつものであり、故意に仁平太と記載せられるに足る何もないところから見れば、係争投票は他事を記入したものではなく志村平吉の得票とすべきものである。しからば原告及び志村平吉の得票は何れも八十四票であるから原告の当選を取消した被告の裁決は相当であつて、原告の請求は理由がないと陳述した。(立証省略)

三、理  由

昭和二十六年四月二十三日執行の新潟県岩船郡金屋村議会議員選挙の選挙会は得票各百二十八票の近藤定一、米山寅吉ないし得票八十五票の原告の二十二名を当選者と定め、得票八十四票の志村平吉は落選したこと、志村平吉は右当選の効力に関し、同村選挙管理委員会に異議の申立をしたところ、同選挙管理委員会は原告の得票中一票を無効とし、同年五月十六日附を以つて原告及び志村平吉の得票は各八十四票であると決定したこと並びに原告は被告に訴願したところ、被告は同年七月十七日附を以つて原告の訴願を排斥し、原告の当選を取消す旨裁決をしたことは当事者間に争のないところである。

そこで(イ)選挙会が原告の得票とし、被告が無効とした一票(乙第一号証)の効力につき案ずるに、成立に争のない乙第一号証によれば、右一票は「遠山ケジロウ」と記載せられてあり、本件選挙の候補者中遠山の氏を称する者五名、慶次郎の名を称する者一名であることは当事者間争ないところであるから、右一票は遠山の氏を称する候補者を選挙したのか、慶次郎の名を称する候補者を選挙したのか判別ができないものというべく、公職選挙法第六十八条第一項第七号の所謂「公職の候補者の何人を記載したかを確認し難いもの」に該当し、無効たるべきものである。仮に原告主張のような事情があつたとしても、右一票を原告を選挙したものと確認することはできない。(ロ)選挙会及び被告が志村平吉の得票とし原告が無効であると主張する三票(乙第二号証の一ないし三)の効力につき案ずるに、成立に争のない乙第二号証の一ないし三によれば、右三票は何れも「志村仁平太」又は「志村ニ平タ」と記載せられてあるが、投票は何人かを選挙しようとする選挙人の意思を表現する手段であるから、当該選挙人の意思がいかなる候補者に投票したかを判断し得る以上、これを有効投票として選挙人の投票意思を尊重するよう解釈すべきものであり、本件選挙の候補者中この記載と同一の氏を称し、類似の名を有する候補者が志村平吉の外存在しないことは、原告の明かに争わないところであるから自白したものと看做すべく、且つ仁平太は既に故人となつた同人の亡父の名であることは原告の自ら主張するところであるから、右投票は既に故人となつた亡父を選挙しようとするものではなく、志村平吉を選挙しようとするものと認めるのを相当とし、「仁平太」又は「ニ平タ」を他事を記入したものとして無効とすべきものではない。しからば原告及び志村平吉の得票は何れも八十四票となるから、原告の当選を取消した被告の裁決は相当であり、原告の請求は理由がない。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 山口嘉夫 猪俣幸一)

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